大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成7年(ワ)15668号 判決 1996年3月18日

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告の請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、二〇〇万円およびこれに対する平成七年八月二三日から支払済みまで年六分の割合による金銭の支払をせよ。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告の答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  原告の請求の原因

1  被告は、火災等の損害についての保険業を営む者である。

2  原告は、平成四年一〇月一九日被告との間において、時計(パティック、保険価額二〇〇万円)その他五点保険価額合計三〇〇万円及び保険金三〇〇万円とする動産総合保険(損害保険)を締結した。

3  原告は、平成五年八月二三日午後六時三〇分頃から午後九時頃までの間に東京都中野区中野二丁目一一番五号先路上に駐車中の自動車内からそのコンソールボックスに保管してあった原告所有に係る右2の時計(以下「本件時計」という。)を何者かに盗まれた。

4  よって、原告は、被告に対し、本件時計の保険価額である二〇〇万円の保険金及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成七年八月二三日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因事実に対する被告の認否

1  請求原因1及び2の各事実は認める。

2  請求原因3の事実中原告が時計の盗難にあったとの点は知らない。その余の事実は否認する。

三  被告の抗弁

仮に原告主張の盗難の事実があり、これによって原告がその主張の損害を被ったとしても、原告は施錠もせずに、エンジンを掛けたまま長時間路上に自動車を放置し、その中の蓋もないボックスに本件時計を入れた紙袋を置いていたというのであって、その盗難について重大な過失が認められるから、動産総合保険普通約款第三条第一項(1)により、被告は保険金を支払う義務がない。

四  抗弁事実に対する原告の認否

原告が、約三時間路上に自動車を施錠しないで置いていたこと、本件時計を入れた紙袋を蓋のないボックスに置いていたことは認める。

第三  証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

一  請求原因1及び2の各事実は当事者間に争いがない。

二  原告は、その本人尋問において、本件の動産総合保険契約を締結する際、保険代理店の担当者に保険対象となるパティックの時計を示したと述べていること、成立に争いのない乙第二号証によれば、原告が宝石、貴金属等の輸出入及び販売をも業務内容とする株式会社サント二十一の代表取締役を務めていることが認められること、成立に争いのない乙第三号証によれば、原告が本件時計の譲渡を受けたとする原嶋清吉は、原告の述べるとおり平成三年一〇月以降インドネシアジャカルタに転出したと推認されること、原本の存在及び成立に争いのない乙第五号証並びに弁論の全趣旨によって真正に成立したと認める乙第六号証から第八号証までによれば、原告主張のような事由によってJAFの担当者渡辺浩及び於保誠之が平成五年八月二三日東京都中野区中野二丁目一一番五号先に出動し、エンジンを当分の間掛け放しにするよう指示したことが認められること並びに原告本人尋問の結果によれば、請求原因3の事実のあったことを推認することができる。

三  前掲各証拠及び原告本人尋問の結果によって認められる事実によると、原告は、施錠されておらず、人が看守してもいない自動車をエンジンを掛け放しのまま約三時間にわたり路上に放置し、かつ、その自動車内の蓋もないコンソールボックスに紙袋に入れた本件時計を無造作に放置していたというのであって、まさに人がこれを盗取するがままに任せた状態にしていたという他はない。本件時計のように高価なものについて損害保険契約を締結している者としては、その高価であることに応じて慎重にこれを保管する責務があるというべく、その盗難は、そのような責務のある原告の重大な過失に起因するものと評価せざるを得ない。

そうすると、動産総合保険普通保険約款第三条第一項(1)により、被告は、その盗難による損害について保険金を支払う義務がないこととなる。

四  以上によれば、原告の請求は理由がないこととなるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 中込秀樹)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例